2004年10月26日火曜日

一子相伝 大樋焼

大樋焼は、ロクロを使わない手びねりとヘラで、ひとつひとつ作られる。保温に富み、軽くて暖かみがあり口当たりが柔らかなのが特徴。江戸時代に、楽焼が金沢の土と出会い生まれるが、京都の楽家から、楽焼きの黒や赤を使うことを禁止され、独自に飴釉という釉薬の効果を利用している。

この大樋焼を、私の茶道の師匠は年に一回のお茶会で使用する。普通に買うと一つ40万円ぐらい。先生の持っているのは何代か前の大樋長左衛門のものでうん百万する。この恐るべき値段の茶碗を持ってしゃなりしゃなりと歩き、お手前を振るうのがお茶会というものだ。しかししかし、うん百万と言われてもピンと来ないものがある。だってただの茶碗なのだ。茶碗一つにうん百万。物の価値が狂ってる気すらしてくる。

先日、10代目大樋長左衛門がちらっとテレビに出ていたのだが、大樋焼は「一子相伝」と言って、たった一人しか継ぐことができないそうだ。2人兄弟でも1人しか伝統を受け継ぐことができない。そして全ては手作り作業のため、希少価値が高いのだ。ゆえに、これだけに高価な値段がつくのだと納得。ゆえに、10代目大樋長左衛門のご自宅は、インテリア雑誌のグラビアにでもなりそうな、洗練さとモダンな装いだった。

しかしこれだけの希少価値をめぐってか昨年度は大樋焼きの名称をめぐっての裁判事件も起きている。大樋の名をめぐり争う2人の金沢の陶芸家。その狙いは伝統の継承か、はたまたうん百万の茶碗のためか。

次期11代目大樋長左衛門は、大樋焼を使った空間プロデュースをしていて、今の時代ならではの活動も目立つ。茶道具だけでは、もはや時代遅れか。親が子の焼き物を厳しく批判し、子が親の焼き物を理解できないといい衝突する。そうやって切磋琢磨されていく大樋焼。10代目は言う「時代に応じたものを作ってこそ伝統は引き継がれていく」。

素朴な茶碗が一つ生まれるまでに、一子相伝ゆえの長左衛門を引き継ぐ者のドラマもある。ものすごく独特で固有な戦いで、芸術は戦いから生まれるのだと思った。

0 件のコメント: